ブラック企業の定番文句「当たり前」という言葉にトラウマを抱いた高校時代の恐怖体験


4月を迎えて入学・入社の時期。まぁ、新卒で就職しなかった僕には4月入社ってピンとこないんだけど。そんな中、ネットニュースの「もし自分が入った会社がブラック企業だったら…」という記事で、ブラック企業にありがちなワードに「社会ではこれが当たり前」という言葉を見かけて、ふと思い出したことがある。

僕は「当たり前」という言葉に対して、思い出すだけで頭痛がするような思い出がある。
それは高校時代に受けた、とある“恐怖体験”だ。

僕の通っていた高校は生活指導が厳しいことで有名で、市内の北部にあったことから地元では「北の軍隊」なんて呼ばれていた。校則は「ブラック校則」という範疇を越えていて、例えば髪がもともと栗毛色だった子なんかは、中学時代の写真を見せても信じてもらえず、親が学校に説明してようやく許されるくらいだった。そのほかにもシャツの裾をズボンから出していると廊下の数百メートル向こうから教師の怒号が飛んできたり、掌から爪がちょっと飛び出しているだけで注意されたり。今ではだいぶマイルドになっているんだろうけど、当時は確かに「軍隊」と言われてもおかしくない学校だった。



ある日、水泳の授業の日にコンタクトレンズの保存液を忘れてしまったことがあった。当時はまだ使い捨てレンズはなかったから、1枚1万円以上もするコンタクトは子供からしてみたらとても高価なもので、付けたままプールに入るなんて怖くて考えられなかった。

そんなわけで正直に体育の担任に事情を話して見学にさせて欲しいという旨を話したら、その軍曹殿…もとい教師は案の定「あ? そんなことで休むのは認めないよ」と許可してくれない。コンタクトを失くしたら親に申し訳が立たないし、授業を見学にさせてもらうこともできない…。そうなるとどうしようもないので仕方なく保健室に助けを求めたのだが、ここでも保健のオバチャンが「そんなことで授業を“サボるの”?」という感じでまったく援護がない。

結局、行き場がないから早退しようと自分の教室に戻った。クラスのみんなは水泳の授業に行ってしまっているので教室には僕一人。他の教室では授業が始まっている。そうして自分の席について荷物をまとめていると、隣のクラスで授業をしていた教師が自分の生徒に問題を解かせている間に僕を見つけ、こちらに来て「何をしているんだ?」と聞いてきた。

隣のクラスは一個下の学年なので、この男性教師と話すのは初めてだし、名前すら知らない。彼と関わったのは後にも先にもこれ一度きりなのだが、この一件のせいで「T」という教師の名前を今でも忘れることができない。今思えばオールバックでフレームの角がキラリと光った眼鏡が彼の性格を何となく表していたような気もするのだが…。

そして特にやましいことはないので素直に理由を説明すると、教師は「カバンの中を見せろ」と言う。この時点で僕にとってまったく斜め上の反応だったから驚いた。そしてしばらく間を置いた後に「あぁ、これは盗みを疑われているんだぁ…」と、彼が言っていることの真意をようやく察することができた。

この学校の制服を着ていて、あなたとは今ここが初対面で、ちゃんと正直にこちらの理由を話し、逃げずにここにいる。それで生徒をこうも簡単に疑いますかと。そこまで一気に跳躍できるこの人の感性は凄いなって、当時の僕の気持ちを言語化するとしたらそんなところだろう。

半分呆気に取られて「そんなことはしませんよ」と返した僕。すると、その言葉を自分への反抗を受け取ったのか、Tの表情は硬直し、明らかに怒りの色が浮かび始める。そして机の上にある僕のナイロン製のサブバッグを両手で掴み、何が入っているかもわからない他人のカバンを机にバンバンと叩きつけながら…

そんなことは

当たり前

当たり前

と言い始めた。

僕が「いや、だから…」「そうじゃなくて…」と言葉を挟んでも…

当たり前

そんなことは

当たり前

の声で打ち消されて、こちらの話を聞く気もない(お前はアルシンドか、それともCOWCOWか、笑)。そんなにカバンをバンバン叩きつけたら中身が壊れるって。むしろ本題よりも反抗されたと感じた怒りの方が先に立ってしまって完全に冷静さを失っているように見えた。

その様子は今で例えるなら、半沢直樹で小木曽次長がやっていた「机バンバン」そのもの。そして、二人しかいない教室で行われる「当たり前」の連呼はもはやホラーの世界だった。

もちろんカバンを広げても他人のものは出てくることなく、僕にかけられた疑いは簡単に晴れたが、Tからは卒業まで一言の謝りもなかった。

あれ以来、大人になっても自然と「当たり前」という言葉をほとんど使うことはないし、誰かから「当たり前」という言葉を聞いた時は、本当にそれが正しいのか自分の中で問いかけるようにしている。

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