山登り取材で感じた、仕事で言われる「◯◯かもしれない」の恐怖

ひとりきりの登山取材で…

自分に得もないので、ここではあまり個別の仕事については語らないようにしているけれど、もう時効だろうから表に出してもいいだろうというエピソード。

こういう仕事をしていると、なかなかシュールなオーダーをもらうことがある。できあがったものだけ見ると何ら違和感ないが、作っている側は結構過酷なことをしていたりする。

以前、某紙媒体でちょうど今くらいの季節に合わせた登山企画の仕事をもらった。いくつかの低山が連なるところを縦走するという企画で、カメラマンは付けないので一人でやってくれという話だった。



秋口に本が出るということで取材に行くのは8月中。気温30度を越えるようなその時季に、平地とさほど気温が変わらない低山を縦走で歩くなんていう自殺行為をする人はほぼいない。行く前からそれが想定できたから、編集部の人に「カメラマンいないってことは僕もモデルで入れないので写真は主観的な風景だけでまとめる感じでいいですか?」と聞いてみた。

すると、相手からは「いやぁ、歩いている感じも使うかもしれないから撮ってきて欲しい」という返事だった。

なるほど、それマジか。

たぶん他の職業でも同じだろうけど、仕事において無責任な「かもしれない」は結構困る。やる側には負担が増えるのに、その苦労が報われるかどうか分からない。

このケースの場合、山中で自分の姿を撮るには三脚を荷物に入れなければならない。そして主観の写真だけなら行く先々で綺麗な景色を見つけていけばいいのだが、モデル(自分)入りが必要となると別の視点も必要になる。三脚の位置を決めたり、タイマーを設定したりと意外に時間を取る。なおかつ、先述の通り真夏日を越える炎天下が想定され、熱中症にならないよう、ただでさえスピード勝負で行きたいのに、場面場面で立ち止まってセッティングするのは時間と体力を大いに奪う。

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僕は編集の気持ちもライターの気持ちもわかるので、人にモノを頼む時はそういう伝え方はまずしない。状況や天候も鑑みながら、相手に負担をかけるなら果たしてその負担が必要か否かをよく考える。そして後になって「あれを撮ってない、これを撮ってない」となるのも相手が不憫なので、少なくともモデル入りカットがどのくらい必要かという量感だけははっきり伝える。というより、こちらの要望を全部話した上で頼む相手の意見を聞くことにしている。しかし、そんなことを考えることも理解することもなく「見てから決めたい」と平気で言うような相手なので、泣く泣く「かもしれない」レベルの話を飲み込んで現場に向かった。

過酷な“自撮り”取材の果てに

行ってみたら誰か歩いているかもしれない…と希望を抱いて現地に到着したが、そんなものは簡単に覆された。山ん中、人っ子ひとり歩いちゃいねぇ(笑)。そもそも山中の静かな場所で、街中の人を風景の一部として撮るように登山者を無断撮影するのは難しいし、たとえ取材という名目があっても衆人環視のない中で「写真撮らせてください」と頼むのは、自分自身が言われた相手だったとしてもちょっと怖い。

そういうわけで登山道に入り、目ぼしい場所を見つけては三脚を立てて自分が入った画を想像しながら構図を決めてタイマーでシャッターを切った。ファインダーが覗けないのでだいたい一度ではうまくいかなくて、1カット撮るのに大分長い時間が取られる。実際の体験を伝えるためにロープ場のような急勾配の場所でも自撮りに挑んだ。



ひとつ勉強になったのは、自撮りというのは人がいる場所よりも人がいない場所でやる方がドキドキするのだということだ。なぜならもしも誰かに見つかったら、こんな山の中で自撮りしている奴なんて、たぶん露◯趣味のあるような“ヤバいやつ”とかにしか見られないだろう。そんな感じで誰かに見つかることに怯えながら全部で10カットくらいを撮影して納めただろうか。

そして取材が終わって数日後、編集の人からラフとともに使用写真のリストが送られてきた。僕が写ったカットは1枚しか使われていなかった。そこには申し訳のひとつすらなく…。「かもしれない」で言ってくる人なんて大体そんなものだから案の定といえば案の定であったが、心中で「1、2枚しか使わないなら初めにそう言えや」と思ったのが本音である。

必要な場面で必要な人材を使わないというのは、頼む側のコスト削減にしか正義はないと改めて感じた件であった。そこにはもう少し深い考えがあるけれど、それこそ話しても何の得もないので心の内に秘めておくことにする。

【about me…】

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済など様々。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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