現代人には「トラブルを楽しむ」という発想が足りない?という雑観
愛知県に住む友人とのLINEの会話で「京都出張の際に財布を忘れて大変だった」という冷汗エピソードを聞いた。小銭入れは持っていたが、そこには1700円しかなかったという。京都まで往復1700円はしんどい…というか、新幹線チケットを会社からもらっていたとしても、現地での移動費とか最低限かかるものを考えるとメシ抜きでも不可能に近い。
それは大変だ。
だがしかし、さらに詳しく聞いていくと、車での日帰り出張でたまたまスマホにクレジットカードを登録したばかりだったので大体の会計はそれで済み、さらには上司が同行していたという。
「昼食が1500円したから残り200円しかなくて、さすがに駐車場代は上司に借りた。小銭入れにも5000円くらいは入れておかないとな」
…なんだと?
それネタとして語るほどのピンチではない。そもそも1700円しか持ってなくてランチに1500円使える余裕さよ。
一人で京都へ商談に行ったが、まさか財布を忘れて手持ちの現金が1700円しかなかった。現地の移動で1000円使ってしまったので残りはたった700円。何も食べられなくて腹ペコの中、出張先で事情を話したら向こうの人が昼飯をおごってくれて、話が盛り上がって意外と成果につながったかもしれない。さらには帰りの駅まで送ってくれたので、結局700円でお土産の八つ橋買えました…みたいな珍道中の方がだいぶ面白い。
本物のピンチというのは、異国の田舎なんかを一人で旅している時に手持ちの現金が底を尽き、絶対的な貧しさを強いられるような状況をいうのだよ。
そして、これは困った…と右往左往していると、目に飛び込んできたのは路上に剥き出しで設置されたATM。助かった、これならクレカでキャッシングできる。…いや、ただし、果たして野ざらしで置かれたこいつを信用していいものか。こういうのは故障とかの都合でカード入れても出てこないなんてことが普通にある。銀行のATMじゃないので誰に助けを求めればいいのか分からず、極限状態の中、テンパったまま独りポツン…みたいな。
そういうのが旅のお金における真の冷汗エピソードなのだよ。
よって、彼は話盛り過ぎの「盛り男」に認定することとした。
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旅にトラブルは付き物だし、後になって話のタネになる程度のトラブルが起こらない旅は面白みに欠ける。目的の場所に行ってみたら休みだったとか、間違って反対方向のバスに乗ってしまったとか、頼んだ料理が想像とまったく違ったとか…。
非日常を楽しみに行くわけだから、そもそも思いもしないトラブルが起こるのが当然だと思って出かけるべきだ。翻っていえば、小さなトラブルにグズグズ言う人は自由旅行に向いてないし、そういう人は一緒に旅する立場としても心地良い相手ではない。
旅というのは何かのトラブルで壁にぶつかって、そこをどうやってリカバーするかが楽しい。仕事のピンチはクリティカルなダメージになることがあるけれど、旅のピンチはだいたい一過性のもので、その場さえ切り抜ければ思い出や経験値に変わる。一人旅の場合はひとつひとつの行動に意思決定が伴い、その中で失敗を繰り返すからこそ、旅を通じてちょっとずつ強い人間になれる。翻っていえば、そういう寛容さを持てれば、予定を固めきっていない旅ほど予想外の面白さに出会えるチャンスがあるはず。
ただ、技術の進歩、とりわけスマホの登場で小さなミスはだいぶ少なくなった。目的地までの行き方、細かな位置の確認、ホテルや交通機関の予約までオンラインでできてしまう。例えば、財布を忘れて小銭入れしかなかった友人の彼も、スマホ決済が“使えてしまった”。もちろん出張なので、このケースは事なきを得て正解だったのだが…。
そう考えるとスマホはもちろん、ケータイなんてなかった頃は、普段の生活の中でも予期しない小さなミスが多かったと思う。受け止める方も「それならしゃーないわ」という寛容さがもう少しあったと思う。何でもかんでもデータなんかでキチッと相手に都合の良い情報が示されて、じわじわと理詰めで詰められる世の中もどうなんだろう。個性が重んじられる反面でロボットのような正確さが求められる風潮は強くなっているような。
なんというか、旅はもちろん、普段の生活でもトラブルに対する寛容さが少々足りないなと、変なきっかけから昨今の世知辛さについて考えさせられた出来事であった。
【about me…】
鈴木 翔
静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。