フィリピンのプエルトプリンセサからエルニドの移動が超絶過酷だった件について

今年のゴールデンウイークは早めに出国し、約2週間の日程でフィリピンを旅してきた。

人生2度目のフィリピン旅。前回はセブ島とその隣のボホール島を巡り、そしてマニラの旧市街を街歩きする旅程だったので、今回はマニラ空港到着後そのまま国内線でパラワン島に移動し、プエルトプリンセサとエルニドという二大ビーチリゾートを訪れた後、一旦マニラに戻ってルソン島北部のバナウェに向かうという旅程を組んだ。神秘的なラグーンとか棚田の絶景とか、いろんな景色を見てきたのは確かだが、そういう話は他のブログに譲るとして、ここではもう少し個人的な経験談を語りたいと思う。



前回のインド旅がスケジュール詰め込み過ぎな日程だったので、今回はなるべく緩い旅程を組んだつもりだったのだが、結果的に今回もかなり過酷な展開になってしまった。予想以上のハードさを極めたのは、各地で繰り返された「乗り物酔いとの激闘」が原因だ。夜行列車や深夜バスなど、僕の旅に長距離移動が付き物なのは毎度のことだが、今回ばかりは乗るものすべてが“強敵揃い”だったのである。

ちなみに、この国の交通事情について先に簡単に触れておくと、大小無数の島で構成されているフィリピンという国は、鉄道網がまったく発達していない。よって長距離の中心はバスか乗り合いバン、もしくは船ということになる。

はじめにやってきた強敵は、パラワン島の空の玄関口であるプエルト・プリンセサとフィリピン最後の秘境といわれるリゾート地・エルニドとを結ぶ「爆走ハイエース」だった。

この2つの町を結ぶ交通手段は大型バスと乗り合いバンの2つ。ほかにタクシーをチャーターするという手段もあるが、それは費用的に現実的ではない。そしてバスの方は深夜便しかないので、必然的に大半の旅行者がツアー会社などで予約できる乗り合いバンを選ぶことになる。

かくして夕方6時、定員いっぱいの客を乗せてプエルトプリンセサを出発した我らのハイエース。パラワン島北部を貫くメインロードを走る約5時間の道のりは、海外では10時間以上の移動が珍しくない僕の旅の中ではさほど長いわけではなく、乗車場所にやってきたのも綺麗すぎるくらいの車体だ。

ところが交通量の多い市内を走っている間こそおとなしい走りを見せていたのだが、街道を外れた途端に“地獄のドライブ”が幕を開ける。



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エルニドまでの道路は総じて片道2車線がある綺麗な舗装道で、昼間ならば海岸線も見えるであろう気持ちの良さそうなドライブウェイなのだが、ドライバーの運転技術がとにかく酷かったのだ。

まず我々を悩ませたのは、力まかせにアクセルをベタ踏みし、スピードを出し切ったところで減速してまた踏み込むという爆走運転だ。それに加え、カーブだって緩やかに曲がるのに十分な余裕はあるものの直角的にハンドルを切ろうとする。この国の制限速度は知らないし、僕のいる最後尾の席からは速度計を見る由もないが、体感からすると150キロ以上は出ているような…。つまり速度が上がったりカーブを曲がる度に我々の体は前後左右に揺さぶられ、壁に頭をぶつけるわ、強烈なGが五臓六腑にのしかかってくるわという最悪な状況だ。

我ら日本が生んだ商用車の代表格であり、最近では芸能人の移動車としても人気というハイエース。僕たちの国では「居住性抜群で安心・快適」な車も、きっと君たちの国では「多少ブッ飛ばしても人も車自体も壊れない車」という認識なのだね。緩やかに走ってこそその良さが分かる車なのに、そのあたりは国民性の違いなんだろう。

なお、市外に出ると信号はないのでブレーキを踏むという概念もない。なんなら田舎道には道路照明もないので、ヘッドラップの灯りを頼りに我々をスシ詰めにしたハイエースが闇夜の中を弾丸のように突進していくというメランコリアに堕ちそうな状況。これには欧米人8割の同乗者たちも参ったようで、車内で意気投合し、最初はそれぞれの旅バナ(≒旅人にありがちな旅自慢マウンティング)を語り合っていた彼らも次第に会話を閉ざしていく。

ちなみに、この状況を予想できなかった…といえば嘘になる。実は、マニラから空路でプエルトプリンセサに着いた前日、この街近郊の世界遺産・地下河川国立公園へのツアーに参加した際も移動は同じくハイエースだったのだ。

この時も現地まで往復2時間の移動は全身を何度も左右に揺さぶられる試練であった。しかし、この時は道の大半がハイウェイを外れたスーパー林道のようなワインディングロードだったので、ずっとハイウェイを行くエルニドまでの道のりは同じようになるまいと思っていたのである。ところが、その予想は思ったよりも遥かに厳しい形で裏切られたのだ。

半分ほど進んだところの食堂で20分ほどの休憩。トイレを済ませた我々は皆、疲労感を浮かべた表情で暗い夜空の虚空を眺めている。そんな中で当のドライバーだけはケロッとした顔をして食事中。時間は夕食時、こちらも何か食べたいところだが、これからの道中、パンひとつでもおなかに入れたら、これからの車中で“持っていかれる”ことは目に見えている。



パワーを十分にチャージした運転手の暴走的ハンドルさばきにさらに拍車がかかった後半戦。相変わらず少しでも油断すれば体に壁に強く打ち付け、逆に倒れれば周囲の人とぶつかり合ってしまう状況で眠ることもできず、苛立ちを抱えていた隣の白人女子からも段々と「テリブル」や「クレイジー」という不満の言葉が聞こえてくるように。その中で電波の届かないスマホを片手に、GPSだけは繋がったマップを見ながら、ただただ早くエルニドに着くことを願うしかない苦しい時間となった。

そんな死地をどうにか耐え抜きエルニドに着いたのは日付が変わる直前。それぞれのホテルの前で同乗者をドロップオフしていく際、普通であればいろんな国の旅行者が乗り合わせたこういうバンなら皆何かしら挨拶を残して降りていくのだが、この時だけは誰もが無言で去っていく背中が激戦の跡を色濃く物語っていた。



ちなみに、エルニドにも空港はあるのだが、便数が少ないこともあって運賃が高い。そのため帰路はプエルト・プリンセサに戻ってマニラに戻るのが一般的らしい。しかし、それはつまり、あの爆走ハイエースにもう一度乗るということなのだが、あの五臓六腑がひっくり返るような体験を数日のうちに再び喰らったら、きっと寿命がもう一週間くらい縮む…、というか無事に日本に帰れるか分からない。そんな中で僕は空路でも陸路でもない“第3の手段”を見つけたのだが、それを選んだことが新たな激闘を招くことになったのである。

about me

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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