フィリピンの日本食チェーンで感じた、ある違和感について


前回に引き続きフィリピン旅行の話。普段であれば2週間程度の旅ならできるだけ多くその土地の食の楽しみたいと思うのだが、今回だけは現地食があまり体に合わず、何度か日系の日本食チェーンを利用した。

日本と縁が深い国であり、僕らと同じく米が主食の国ということもあって、この国には日本のレストランチェーンが多く進出しており、他のアジア諸国と比べても日本食がローカル食の中に受け入れられている印象だ。



味も日本のお店そのまま…とは言えないのが正直な感想だが、例えば丸亀製麺にカツ丼があったり、お好み焼きのぼてじゅうがラーメンを出していたりと、チェーン間の競争意識の中で本国にはないメニューが提供されているところも面白い。

僕が利用したのはショッピングモール内の店舗ばかりだったが、どの店もオープンキッチンのレイアウトで、行列待ちの間、天ぷらが上がる音や鉄板を叩く音が絶えず聴こえる景色が、心地よい活気とフィリピンの若者たちの生真面目さを感じさせる。



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ただひとつどの店にも共通して違和感を感じたのは、見たところスタッフは全員フィリピン人なのに、日本語の「イラッシャイマセ~」と「アリガトウゴザイマシタ~」が日本の店さながらに店内に幾度と響き渡っていたことだ。

日本のチェーンなのだから挨拶が日本語なのは当たり前だろうと思うかもしれないが、広い視野で考えてみてほしい。日本の場合、外国から上陸したチェーンであっても入店時にかけられる声は日本語の「いらっしゃいませ」である。例えば台湾発のタピオカミルクティー店で「歡迎光臨」だったり、街場のインドカリー屋で「スヴァーガト」なんて言葉をスタッフから聞くことはない。例えあったとしても極めて少数派だ。

ここフィリピンでも他の異国料理のレストランチェーンが積極的に母国語を使って接客しているようには思えない。…というよりも、客が店に入った時に店員が揃って「いらっしゃいませ~」なんて元気よく声出しするのは日本くらいのもの。つまり、その日本式のスタイルを持ち込んでいるのだから、言葉も日本そのままの「いらっしゃいませ」や「ありがとうございます」を使うオペレーションになっているということだろう。

しかし、それはやっている本人たちにとってはどんな気持ちなのだろうか。「日本の挨拶や日本式のおもてなしが覚えられて嬉しい」みたいな感じなのか、それとも「声出ししないと雇ってもらえないので仕方なくやっている」という感じなのか。



いずれにせよ、僕からすると、まるで他言語の若者たちに「日本のおもてなしはこうなんです」というエゴを押し付けているかのようであり、日系チェーンにしかない「イラッシャイマセ~」の声出しが何度も繰り返される景色にガラパゴス的なものも禁じ得ない。

外交や貿易と違って文化に相互主義みたいなものはない。ただ、郷に入れば郷に従えで、サービスのあり方はその土地ごとの自然な形でいいのではないかと思うのは僕だけだろうか。

about me

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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