何、シャバいだと…? 名古屋・錦の客引きが全国屈指にクセつよだった件

先日、ある仕事を頼まれて日帰り予定で名古屋まで出張した時のこと。

夕方前に名古屋に着き、テレビ塔近くの現場で取材が終わったのが夜の10時前。名古屋駅まで急げば最終の新幹線に間に合うが、さっき名古屋に来たばかりでどうにも帰る気力が湧かない。ならば、その辺のネカフェで今夜のうちに今の取材の原稿をまとめてしまうのも悪くない。そう思って、まずは腹ごしらえをと街の中を歩き始めたのである。



名古屋に土地勘がある人ならご存知だろうが、テレビ塔に隣接する界隈は東海イチの歓楽街である錦の街だ。そしてこの日は金曜日。深夜を迎えつつある街には、休日前のテリブルドランカーたちが溢れかえっている。

比例して尋常に多いのは客引きの姿だ。居酒屋、キャバクラ、ガールズバー…、通りのそこらじゅうでいろんな客引きが獲物を探す目を光らせているのだ。

そしてこれが結構厄介で、一度ターゲットに定められるとまるでスッポンのようにしつこく着いてきて、なかなか逃してくれない。客取り競争が相当激しいのか、「もう帰る」と言って逃げようとしても、バスケのディフェンスみたいに両手両足を広げて道を塞いできたりする。まるでスラム◯ンクでかつて見た一之倉のスッポンディフェンスや。ほい、ほい、ほい、ほい、って、あー、ウザいウザい。

あるところでは、店の入り口で客引きと話しながら「そこのヘッドホンがかわいいお兄さん、飲んでかなーい?」と誘ってくるキャバ嬢に遭遇した。どう見たって俺より十歳は下。すごくからかわれている気がする。おぬし、ルッキズムって言葉を知っているか。今の時代、見た目で人をおちょっくったりしちゃいけないんだぞって、わたし激オコ。



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全国各地を旅してきた中で、北は札幌のススキノから南は那覇の松山まで有名な歓楽街も大体見てきた。夜遊びはしなくとも、新宿歌舞伎町なんて月に一度は歩いている。その見地からこう断言する。

ここの客引き、たぶん全国で一番クセが強い。

こちとら革ジャン姿で歓楽街の中にポツンと一人。もしも自分が逆の立場だったら、確かに遊び場所を探している“いいカモ”そうに見えるかもしれない。ただ、歌舞伎町でもどこでも、今の時代ここまでしつこくは追いかけてこないし、人のパーソナリティに踏み込んでこないんだよ。



そうして目ぼしいメシ屋も見当たらないまま結局街の隅までやってきたら、最後の交差点でまた若い客引きが近付いてきて、「お兄さん、もう一件飲み無いっすか?」と聞いてくる。

「間に合ってます」と返すと「これからどこ行くんすか?」と彼。続けて「もう帰る」と言ってウザい密着マークを外そうと早足になると、僕の背中に向かって彼がボソッと一言こう言う。

「あー、マジでシャバいっすね」

あ? なんだ、と?

ちみ、もしかして今、お兄さんのこと「シャバい奴」って言った?

それは名古屋弁じゃないよね。若者言葉なんだろうけど、その意味くらいは僕にも分かる。だって、昔、僕よりちょっと上のお兄さんたちの間でもその言葉流行ってたんだぜ。ネットの辞書にも「『シャバい』とは、ひ弱・真面目・さえない・根性がないを意味する表現である」って書いてあるじゃないかー。



まさか、名古屋だからって秀吉公の「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」を実践しようとあえて挑発的な言葉を使ったんじゃないよねぇ。いずれにしたって見ず知らずの人に自分から声をかけておいて、相手にされなかったからって「シャバい」みたいな言葉で他人を貶すのは、あまりに失礼なんじゃない?

ふつふつと込み上げるものがあったが、ここでその感情をむき出しにしたところで取り返しのつかない失点になるだろう。よって、きっと空腹のせいでイライラしているのだと自分の気持ちを沈め、ようやく見つけた食堂で唐揚げ定食を食べた後にネカフェに直行。「僕はシャバいやつなんかじゃないぞ」と自分に言い聞かせながら朝までに原稿を一本上げた名古屋の夜だった。

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鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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