「人のせいにしているうちは成長しない」がそのうち通用しなくなりそうなAI時代

僕が出版業界に入った頃には既にDTPというのが普及していたので、昔からの組版というのを経験したことがない。ただ、印刷までの工程が簡略化されて出版の数そのものは増えたため、人が書いた文章を読んだり自分が書いた文章を推敲するという作業の数はものすごく多くこなしてきた自負がある。それゆえ目に触れる文章の中に一文字でも誤字があるとすぐに気付いてしまうのが職業病になっている。
文章の中に誤りや繋がりのおかしい部分を見つけて正す。それを技術として高めていけば「校閲」という立派な“手に職”となり、それだけでメシを食っていくことが可能だ。しかし、そういう仕事も時代の流れによって枯れゆく運命なのかもしれない。
いつも仕事をいただいている某ウェブ媒体で、サイトにアップされた自分の原稿をエゴサしていた時のこと。
あれ、この部分、俺が書いたのと変わってないか?
なぜか導入のある部分が削られていたのである。先に断っておくと、自分から手離れした原稿に多少の手直しが入ることは大して気にしない。むしろ、それで原稿のクオリティが上がるのならば感謝カンゲキ雨嵐(ネタが古い、笑)である。ただ、この時はその部分が抜かれたことにより、後ろの流れに辻褄の合わない箇所が生まれてしまっていたのだ。

最新記事-SUZUKISHO.com
- ドン・キホーテの爆安おにぎりに見つけてしまった致命的なミス
- 新潟県のトリコです
- 「人のせいにしているうちは成長しない」がそのうち通用しなくなりそうなAI時代
- ガンプラ模型店で考えさせられた「リアル店舗でモノを買う意義」とは?
- 世の中まだまだ捨てたもんじゃない
しかし、もう世に出てしまったものに余計な茶々を入れて波風を立てたところで、僕に何も得がないのは十中八九分かっている。それにウェブの情報なんてあっという間に誰にも知られぬまま流れていく。よって、ここは黙っている方が得策……とも思ったのだが、やっぱり取材に協力してくれた人もいる手前、そのまま放置しておくのはよろしくない。
そういうわけで媒体の担当者にメールで問い合わせてみると、しばらくして次のような返事があった。
「AIにチェック任せたら、何かのミスで間違っちゃったみたいっす」
なるほど、そうきたか。今じゃAIが原稿を書いてくれるツールがあれば、人が書いたものをチェックしてくれるAIツールだってあるはずだ。それがあれば自分の眼なんて鍛えなくても、もらったテキストをAIにぶち込むだけで、自動的に校正済みの原稿が上がってくるのだろう。AIが作ったものを人が見るのではなく、人が作ったものをAIが見る不思議な時代に入っている。
僕もしばらく前から取材内容の文字起こしにはAIを活用しているし、便利なツールによって仕事が楽になることには反対はないのだが、本来は最初の読者であるべき編集者が、原稿チェックまでAIに頼っちゃうのは恥ずかしくね?
もうひとつ言うと、上がってきた原稿をもっと良いものにするためにあれやこれやと記者とやり合うのが編集の仕事の面白さのひとつじゃね?
ちなみに、この場合、マスに出るものなのだから、AIを使うにしても人力とともにWチェックを行うのが当然で、AIだけのせいにできる話ではない。
僕たちが若手の頃は、よく上司から「誰かのせいにしているうちは成長しない」なんて言われたものだが、今やミスの理由を他の人間ではなくAIにかぶせられる時代が到来しようとしている。
そして「他者のせい」であれば、同僚や仕事相手など実在する人間にミスの原因をなすりつけたことに恥ずかしさや罪の意識が生まれるが、「AIのせい」の場合、なすりつける相手が機会なのでそんな感情を抱くことはない。だから、これからの社会では「AIのせい」が当たり前のようになっていく気がする。
AIが作った資料のせいでプレゼンに失敗した、とか
AIのせいで機密情報が社外に漏れた、とか
AIのミスで忘年会の店を伝え間違えた、とか
AIの予測が違ってお腹壊して遅刻した、とか
AIのアドバイスのせいで客を逃した、とか。
言われた相手もどこに怒りをぶつけていいのか分からなくなるような世の中。
果たしてミスを起こすAIが愚かなのか、それともAIを信じ切ってしまう人間が愚かなのか。いずれにせよ僕自身はいかなる時でもミスで頭を下げなくていいように、AIを活用しつつも自分の本質は失わないオールド&ニューのハイブリッドな組み合わせで自分の感性を磨き続けたいと思っている。

about me
鈴木 翔
静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。
