有名女優の「バラエティくだらない」という放送業界への苦言は、はたして的を得ているのだろうか?

テレビバラエティの殿堂…

かつて、なんてったってアイドルで学園天国の住人だった某有名女優が、ラジオ番組の中で「バラエティくだらない」と発言したことが賛否を呼んでいる。昔のやり方からアップデートされていないというのが、その真意らしい。

いつの頃からか、独自の持論を携えて社会にアプローチするようになった彼女。言い回しが独特ゆえにアップデートが何を指すのかは定かでないが、制作当事者ではない人間が他人がやることを「くだらない」と言い切ってしまうのは、いささかざっくり斬りすぎじゃないかと思うのである。

その理由には僕自身の経験が影響している。



僕は会社員時代、4社の出版関係企業に勤めた。作っているものは、それぞれ近しい領域にありながらもターゲットとする読者層が異なる媒体だった。それで会社を移るごとに、どの転職先でも最初の段階で、必ず上司や先輩から前の職場でやってきたことを否定されてきた。

「鈴木くんは〇〇みたいなものしか作ってきてないもんね」

みたいな感じに。ちなみに独立してウェブの仕事にも進出したら、今度は「紙から来た人=オールドメディアの人」と烙印を常に押される息苦しさを感じることになるのだが、その辺の話はさておき…。

キャリアの否定=無力感の植え付けて自社らしい人間に矯正する恰好の道具なので、何回か転職を繰り返すと「あぁ、またですか。めんどくさ」と構えられるようになるのだが、自分の過去を否定されるのは、きっと誰であっても心地いいものではない。

新卒のプロパーでやってきた先輩や上司ほど、そういう態度を取ってくる傾向が強いと感じるが、では、その会社のやり方しか知らない人々が、自分が過去にやってきた仕事をすんなりこなせるかといえば、大体はそうではない。つまりは、既得権益を持つものが狭いカゴの中でマウントを取りたいがために、ついそういう言葉が出てしまうのだろう。


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こうした同業種間の“醜いマウンティング”を直に喰らって僕が得た悟りは、個々の媒体にはそれぞれの役割があることを認識しておかなければ、無意識に他人を見下した編集者になってしまうということ。

例えば、僕が生きてきた出版業界には、情操を豊かにする純文学もあれば、文学の入り口としての価値も大きいラノベがあったり、ビジネスマンに知恵を与えるビジネス誌、今の流行を敏感に伝えるエンタメ誌、一部の地域でしか販売されないローカル誌など、さまざまな領域の媒体が存在し、それぞれに役割がある。女性ファッション誌はマンガの役割を果たせないし、マンガは辞書の役割を果たせない。それぞれ購入される目的が違って、何かのニーズに応えているから存在し続けているわけで、媒体も作り手もどれが偉いということはない。それを理解しておかないと、特に今のようにいろいろな仕事先、媒体でお仕事をやっていく立場では時に性悪な人に思われてしまう。

きっと、どの業界も似たようなことがいえるだろう。放送業界も、同じ局内で報道、ドラマ、バラエティなど、各領域が互いの素晴らしさや難しさを知らないまま、マウンティングしちゃってる向きが伝統的にあるのは間違いない。



バラエティのクイズ番組で優勝者が牛肉をもらう。牛肉をもらった芸能人が嬉しいかどうかは知ったこっちゃないが、テレビの画面には商品となった牛肉の名前が出る。それを見た視聴者の中には商品のブランド牛に興味を持つ人がいるかもしれない。ネットで何でもお取り寄せができる時代だから、もしかしたらスマホでその牛肉を買う人が出るかもしれない。つまり、消費行動のきっかけや商品のブランディングにもつながり、生産地の応援になるという側面がある。

「芸能人はみんなお金持ちだから牛肉はいらないだろう」という論を軸にクイズ番組をアップデートするとしたら、「優勝者は賞金を全額慈善団体に寄付します」というルールにすれば、それに値するだろうか。きっと最初は目新しさで注目されると思うが、そういう出演者が何も得ないやり方で、果たして視聴者は「クイズに答えて一番を目指す」という番組の世界観を共有できるだろうか。

個人攻撃をするつもりはさらさらないけれど、「バラエティくだらない」というごく抽象的な切り方は、自分の中の考えをこうして改めてまとめるきっかけになったので、さくっと綴ってみた。今後もいろいろな仕事を通じて、あなたに会えてよかった、と思われる人でありたい。

【about me…】

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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