「いい思い出」を残していく意味、それは悲しい時への準備だ

毎日綺麗な夜景が見られる生活も、いつかはいい思い出に

今年もとうとう大晦日。

例年、クリスマス前には都内にいる必要がなくなることが多いので、この時期にはだいたい実家に帰るか、長い旅行に出かけているかのどちらかで、ひとつふたつ書き仕事を抱えたまま外に出るということもある。でも今年は抱えている仕事が年内中にスパッと終わり、それでいて年始の予定も決まっているという“究極”の冬休みだ。もちろんステイホームを意識して大きな外出の予定はなく、本を読んだりして知識を蓄え、そこからいろいろと思考をめぐらし、こうしてブログに思いを掃き出すという有意義な循環のある日々を実践している。



さて、こうして仕事から開放されて、難しいことを考えなくてもいい時間が増えると、改めて今年一年を冷静に振り返ることができる。たぶん、ほとんどの人が同じだと思うけど、今年ほど行動範囲が狭まった一年はないだろう。過去20年、必ず年に一度は異国の空気を吸っていたけれど、まさか一年にわたって東京に閉じこもることになるとは思わなかった。旅がライフワークの僕としては羽をもがれたようで、春ごろには「『翔』から『羽』を奪ったら只の『羊』だよ」みたいな冗談を言っていたけれど、本当に羊のように眠ったままの一年になった。

そんな暮らしの中で改めて感じたのは、自由があるうちに良い思い出を残しておくことの大切さだ。

うちの近所では2月には陽性者が出たから、既にほぼ一年近く、外出自粛を求められる暮らしをしてきたといっていい。こうも抑圧された生活が続くと誰だってストレスが溜まってどこか出かけたいとも思うし、東京以外でGoToトラベルのようなキャンペーンが始まれば羨ましいと思うものだ。でも、そういう気持ちをコントロールできてこられたのも、自由に行けるうちに悔いなく旅を楽しんできたからなんだろう。働くことと両立させながらだから四六時中、旅をしていたわけではないけれど、たぶん地球2周分くらいの重みがある旅をしてきた。「旅慣れた人は地図を見ているだけで旅ができる」と何かの本で読んだけど、今ならその言葉の意味がよくわかる。たぶん、これから先もう外との往来が断ち切られたとしても、これが自分のベストエフォートと言える自信がある。本当に良い思い出を残してきたからこそそう思える。

その一方で、良い思い出は人を強くしてくれる。

僕は、占いとか迷信とかそういうスピリチュアルなものを信じていない。なぜなら、自分の預かり知らないところで自らの運命を決められるなんて悲しいから。広い目で見たらこの生き方自体が旅みたいなものだから、目の前にはできるだけ多くの可能性が広がっていないと面白くない。

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ただ、かつて細木和子ブームに家族がハマった時に言われたのは、僕は「霊合星人」に入るらしい。その特徴を簡単にいうと、良いときと悪いときの振れ幅が大きいタイプということ。確かにこれまでを振り返ってみると、その時々で人生の波の高低差は大きかった。

良い方だけを見れば、こうして独り立ちするまで時代ごと偉大な先達に出逢う機会に恵まれた。占いや迷信は信じないけれど、自分が尊敬する人たちの言葉は心に留めて信じている。その中には勇気を与えてくれるものもあるし、自分の戒めになっているものもある。惜しくもほとんどの人が鬼籍に入ってしまったから、もうアドバイスを求めることはできないけれど、今も岐路に立たされた時は心の中の彼らに問いかけるようにしている。

その上で本当にいろんなことを経験してきた。子供の頃から人生の師とする人から世界の見方から人間的な強さまで様々なことを叩き込まれたし、学生時代に教授のツテでインドの僻地へ行って、かけがえのない仲間と一緒にかけがえのない体験ができた。そして仕事を通じていろんな世界を見たり、なかなか出逢うことのない人たちと話すこともできた。良い家族、良い友達、良い経験…。正直、贅沢とはあまり縁がない人生だけど、本当に本当に良い思い出をたくさん残してきた。



その反面で、今の時代に照らし合わせたら本当に厳しい場面もたくさん遭遇してきたと思う。特に社会に出てからは、何日も徹夜が続く仕事を経験したり、強烈なキャラクターの上司のもとで使いまわされることになったり…。ただ、それらを乗り越えてこられたのも、その都度、良い時のことを思い出して「またああいう良いことがあるさ」と上手く立ち直れたからだと思っている。

良い思い出とは、その時その瞬間の喜びだけではなくて未来の強さに繋がるものでもある。

2001年に起こった9.11の同時多発テロでは、その一年後にグラウンドゼロを訪れる機会があった。あるいは2011年3月11日に起きた大地震では東京でも大きな揺れを経験し、これもまたその後、大きな被害のあった三陸沖を訪れた。そういう経験から得た教訓は、たった10年に一度のペースで、あり得ないと思うことは起こりうるということだ。今回の災難だって、去年の今頃は一寸先の未来でこれだけ移動が制限されると誰が予想できただろう。そして、こういう危機が起こることが当たり前だと思い、常に悔いなく生きていくことが大切なのだと改めて感じた。

今年はこうして無事にゴールできただけで満足の一年。まだ、来年も厳しい一年になると思うけど、良い思い出を胸の中に置きながら「また良いことがあるさ」の精神でがんばろう。

【about me…】

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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