子どもの安全を守る「イカのおすし」を見て何だか哀しい気持ちになってしまった件
何かと肩身が狭い「おじさん」視点で考えてみる
いわゆる「おじさん」に片足をつっこんだ歳になった。独り身だとそこまでトシを感じることはないが、結婚して子を持ち、35年ローンで家を建ったような同い年の友人の中には自分のことを「もう年寄り」という人もいて、ああ自分もそういう歳なんだなと現実にぶつかる。
多様性の時代といわれる中で多様性要素ゼロ。なおかつ旧時代における既得権益の受益者とされがちなおじさんたちは、いま世間で結構肩身の狭い思いをしている。その中で僕が感じる生きづらさなんかを等身大の形で綴っていきたいと思い、雑談とは別に「おじさん視点で考える」という新カテゴリーを作ってみた。
実家から送られてきた資料のクリアファイルに…
先日、実家の親に頼んでいた資料がこんなクリアファイルに挟まって送られてきた。
「イカのおすし」。どこかで聞いたことがあるようなないような…、とにかく子どもに防犯意識を持ってもらうためのキーワードをキャッチーにまとめた言葉だそうだ。ひとつひとつを見ていくと…、
知らない人について「イカ」ない。
知らない人の車には「の」らない。
助けて!と「お」おごえでさけぼう
こわくなったら「す」ぐにげよう
どういう人がなにをしたか、近くの人に「し」らせよう
これらの括弧書きの部分を繋げて「イカのおすし」。あいうえお作文のノリだけど、イカのおすしが子どもたちに覚えやすいフレーズかどうかは分からない。
これは地元の警察署が発行しているクリアファイルだが、もともとは警視庁が考えたもので、全国各地の警察で同様の絵柄を使ったポスターなんかが作られているらしい。ただ、これ、おじさん視点で見ると、ちょっと切ない気持ちになってしまったのである。
だって「行かない!」も「乗らない!」も「大声で叫ぶ!」も、そしてたぶん「すぐにげる!」の魔の手も“危ない人”は私服姿の単独男性。その上で、危ないと知らせる相手だけは女性で、少年のフキダシの中の危ない人もやっぱり男性ですもの。
残念ながら、普段から一人でいることが多くてスーツ姿で行動することなんてまずない自分自身の属性ともすっぽり重なっている。悲しっす。
そして、もしこれが何かと肩身の狭い「おじさん」じゃなかったら、どこかしらから強烈なパンチを喰らっているだろうなぁ…と。
卵が先か、鶏が先か
余談になるが、以前、保育園に通う子を持つ知り合いに園内の防犯訓練の話を聞いた。
その訓練は男性の園長先生が髪の毛ボサボサにして、黒いスウェット姿で凶器を持って園内に侵入したという設定。おそらく女性が多数であろう他の先生たちが児童に「はしっこに逃げろー」とやってから、孤立した犯人に対してさすまたを持って対抗するらしい。
うーむ、わからなくもない、実際にそういう人が起こした事件も過去にあるし。だけど、そんなステレオタイプの犯人、今どきいるかい?
「イカのおすし」も犯罪統計の観点等からこういう構成になっているのだろう。実際に日本における犯罪者の男女比を調べてみると、男性が約8割で女性が約2割。殺人などの凶悪犯罪になるとさらに男性の比率が上がるらしい。その理由は男女間の遺伝子の違いにあるらしいが、分かっていたとはいえ、そういうデータを見てしまうと、ここで言っていることに反論されたとしてもグウの音も出ないのがこれまた哀しいところだ。
ただ、こういうのって知らないうちに無垢な子どもたちへ偏った目を植え付けてはいないだろうか。とにかく「知らないおじさんには近づくな!」と言っているかのように見えてしまう。いや、どちらかというと「おっさんだけ避けておけば安全」みたいな誤った常識が世間で醸成されていくような。そして、それと比例して孤独に追い込まれる中年男性が社会の中に増えていくような気がする。
実際に男性の犯罪率が高いから世間に「おじさんは危ない」という意識が生まれる反面で、「おじさんは危ない」という世間からの疑いの目があるからこそ孤独に負けた中年男性の犯罪が増えるという側面もあるのではというのが僕の仮説だ。卵が先か、鶏が先かみたいな話である。悪人は必ずしも悪の中から生まれるわけではない。
もちろん、困っているところを助けてあげるみたいな機会がない限り、僕は知らない子どもに声をかけようなんて1ミリも思わないが、公共の場所で過剰に警戒されて息苦しいと思ったことはゼロではない。たぶん、多くの男性が同じような経験をしているはず。おじさんもおじさんなりの生きづらさを感じているという、おじさんのリアルをサクッと書いてみた。
【about me…】
鈴木 翔
静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済など様々。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。