【南米のへそ】パラグアイに対する僕のパラグ愛と日本人移住地での思い出
サッカーの森本選手が昨冬に移籍して渡ったパラグアイで交通事故を起こし、ひき逃げをして逮捕されたらしい。パラグアイは僕にとって思い入れの強い国なので、日本人として何となく悔しさみたいなものが過ぎった。
かつて仕事の用事でパラグアイに1週間ほど滞在したことがある。アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイという約1ヶ月の南米行脚の中の1週間。現地では日系人移住地で数日過ごし、一人きりの南米で大変お世話になった。日系人の方々は「よく来たね」という感じで、本当に優しく迎えてくれた。たぶん、僕の外国旅の中で最もあたたかい感触を感じた場所だったかもしれない。
当時の僕と同年代の子たちもいて、移住地内のパリージャリブレ(焼肉バイキング)の店でいろんな話をした。南米で食べる納豆には感動したし、何より日系人の人々の話す日本語の綺麗さには驚かされた。地球の裏側で自分たちのルーツとなる言語を守るということは、綺麗な日本語を伝えていくということと同義だと思う。アイデンティティにおける言語教育の意義について深く考えさせられた。一方で、民宿に泊まった夜、本棚にあった移住地の方々の声をまとめた冊子を手に取り、移住一世の方々の苦労を知って一人で泣いた。その経験はいつか日系人の方のために何か恩返しがしたいという種火として今も僕の心の中にある。
そういう経験をしているからこそ今回の事件は一層残念でならない。現地の日系人の方々にとって森本選手のパラグアイ名門チームへの加入は相当に嬉しいニュースだっただろうから、その期待を裏切ってしまったこの結果は同じ日本人としてとても悔しい。
アスンシオンのホテルで…
南米大陸のほぼ中心にあり、南米の心臓とも言われるパラグアイはやはりサッカーに熱いお国柄だ。強豪国ひしめく南米の中では、毎回ワールドカップ出場の当落線上を争う5〜6番手くらいの位置付けだが、古くはゴールキーパーにしてフリーキックの名手であるチラベルト、僕と同年代ではバイエルンミュンヘンでも活躍したストライカーのサンタクルスなどを輩出している。あまり知られていないけれど、南米サッカー連盟の本部も実はパラグアイの首都・アスンシオンにある。
この国のサッカー熱を感じる出来事があった。首都のアスンシオンに滞在している頃、ちょうどその年のリベルタドーレス杯決勝が行われる直前だった。リベルタドーレス杯とは南米大陸のカップ戦王者を決める大会のこと。その年決勝に勝ち上がったのは、アルゼンチンのボカ・ジュニアーズとブラジルのグレミオという2大強豪国の名門チーム。しかも、ボカはリケルメ、パレルモ、パラシオを攻撃陣に擁する最強の陣容だった。
アルゼンチンはもちろん、ウルグアイでもパラグアイでもテレビを点けるとこの話題ばかり。そんな時にホテルで部屋まで荷物を運んでくれた若者に「君はボカとグレミオ、どっちが好きだい?」って聞いてみた。すると、いかにも純朴そうな彼はちょっと俯き加減でこう言った。
「僕はセロ・ボルテーニョが好きだ」
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それを見て、なんかカッコいいと思ってしまった。セロ・ボルテーニョというのは、アスンシオンが本拠地の有名チーム。この時の数年前に日本人の廣山望選手が所属していたので、当時は日本のサッカーファンにもそこそこ知られているチームだった。
ボカかグレミオかって二択なのに「どっちも好きじゃない」なら分かるけど、わざわざ地元のチームを出すってさ。かっこいいじゃないか。
まぁ、僕の問いかけ自体が南米サッカーといえばブラジルかアルゼンチンっていう先入観バリバリで、パラグアイの人に「ボカかグレミオか」って聞くのは、日本の巨人ファンに「ヤンキースかドジャースか」って聞くのと同じようなものなんだけどね。
日本とパラグアイの架け橋になってくれるはずだった森本選手には残念だけど、今日のニュースを聞いて記憶に蘇ったパラグアイ。日本から飛行機で片道30時間。簡単に行ける場所じゃないけれど、またいつか訪れて、今度はもっとゆっくり日系人移住地で過ごしてみたい。
【about me…】
鈴木 翔
静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。