未曾有の人材不足 いまや客よりもバイト店員に媚びなければならない時代か?

たまに行くと楽しい新宿

カフェなんかに行くと、いかにも真面目そうに見えるバイト店員が客に冷たい接客をし、その裏で店員同士でキャーキャーと楽しく会話しているシーンをよく見かける。その元気、少しは客の前で出せないかと思うのだが、不特定多数の前で愛嬌を振りまいたところで時給が上がるわけでもないので、それなら同僚との会話にパワーを費やして身近な人間関係を深めた方が先々考えれば賢いというのもよく分かる。

一方で、近所にあるチェーン系のトンカツ屋に行った時のこと。まったくの偏見だけど夜はガー◯ズバーで働いていそうな風体のギャルい店員さんが、非常に心地良い接客をしていた。言葉が丁寧なわけじゃない。ただ何か、そのハキハキとした応対に元気がもらえるのだ。そこは調理場も筒抜けなのだが、裏で余計な私語もしない。やはり人は見かけだけで判断してはならないし、この歳になっても未体験のガー◯ズバーなるものに初めて行ってみたい気分になったとかならないとか。



さて、先日こんな体験をした。仕事の都合で行った新宿で、帰りにとあるバーに入った時のことだ。

用事を終えてから、そのままカフェで作業をして時計の針は23時過ぎを指している。軽く一杯というつもりでいくつか店の中を覗いていると、店員が客席にもたれかかり、スマホをいじりながらいかにも暇そうにしている店を見つけた。他の店は常連客で賑わう時間帯だ。その輪に入るような気分ではないのでちょうどいいと思い、その店に入った。

そこは昔、何度か入ったことのある店だった。大衆沁みた昭和レトロなバーが集まる界隈の中でもモダンな雰囲気を漂わせ、若い人でも立ち寄りやすい風情がある。

前に入ったのは5年以上前のことになるので、店員の顔は変わっていた。軽くクルッと巻いた短髪に、ベストを着た割と綺麗目の格好。年齢を見極めるのが下手な僕だが、おそらく自分よりも10歳は若く見える。客が来たのでカウンターの中に入る彼。

席に着いて、はじめにビールを頼んだ。そして、1対1で冷めた空間も窮屈なので、差し障りのない話題をこちらから振ってみた。

差し障りのない話題というと、自分はどこに住んでるとか、この店で働いて何年になるかとか、コロナ禍前に比べて人出はどうかとか、そうした大しておもしろくもないネタである。

しかし、どうだろう。そんな月並みな会話がなかなか噛み合わない。コミュニケーションとは双方向から声が出て成り立つものだが、こちらが明るく話しても、向こうが返しやすいネタをふっても、相手からは打っても響かない鐘のように言葉が出てこない。ボソボソと「確かに…」「なるほど…」みたいな単語程度の返しがあるだけで、愛想笑いのひとつも起きない。

何だか、フィールドの10人が誰も動かないサッカーチームを相手にして、その中をドリブルで抜けてシュートを放つも最後のキーパーに必ず弾き返されてしまうような。そんな気分だ。

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うーむ、自粛生活が続いたせいで、こっちのトーク力が落ちたのか。やや自信を失いかねない事態である。それとも彼が不機嫌になるような話をしてしまったのか。いやいや、たとえそうであっても世間の平均以上にスマートな喋りはできているだろう。べろべろの酔っ払いがゲリラ的にやってくるような店にとってみたら従順な優等生のような客であるはず。まぁ、きっと、こういうペースの人なんだろうな。客として入ったつもりが、何故か異常に気を遣っている自分がいた。

よって、スマホを取り出して雑多なニュースをザッピングするという、非日常な場所にいながら日常と変わらない行動を始めた私。しかし、ソーシャルディスタンスとは何かね…と感じるような狭い空間で、二人きりまるで会話のない時間は苦しい。久しぶりに味わうビールも正直マズい。そこで諦めずにもう一度話を振ってみる。すると彼は…、

「へぇ~、そうなんだぁ…」

とボソリ。え? ここでタメ口。まったく距離詰められた気がしないけど、ここでタメ口?



そこから数回、言葉のキャッチボールをしたけれど、ずっとタメ口。タメ口が悪いとは断言しないが、客の立場である上、お互いの歳を知らない(そして、たぶん相手の方が若い)中で、なおかつこの冷めた空気。正直、タメ口で話されるのは心地よくない。きっと敬語を使わないスタイルの方なんだろうと思い、ここで出てしまってもよかったが、チャージも払う分、目の前の一杯くらいは飲み干さないともったいないなと、再びスマホを見つめることにした。

そして10分ほどが経ち…。相変わらず客一人の店に、明らかに学生に見える男子がやってきた。どうやら、ここのアルバイトらしい。

男子はまだ入りたてのようで、カウンターの中に立つと冷めた店員がシフトなどの相談を始めた。以下、冷めた店員の言葉を記憶の限りまとめたものである。

「もうひとつのバイトって何時までやってるんですか?」

「水曜日の深夜の子がいないから入ってくれたら嬉しいです」

「◯◯の作り方わかりますか? 教えましょうか?」

ん? え、敬語…ですか?

さっきまで客にタメ口だったのに、入ったばかりのバイトには敬語。あんたタメ口を貫くスタイルじゃなかったのか?

そうして客の私はまったく無視で、ハイボールかなんかの作り方を練習し始めた2人。さっきまで鉄仮面のように固まっていた店員の顔はニッコニコの笑顔である。4畳ほどの狭い空間に男が3人。その中で一人感じる疎外感…。楽しそうに会話する2人を前に、会計のお願いをすることすら憚られるような空気になっていた。

客には媚びず、バイトに媚びる。

会社員ではなくなってしばらく経つから自分の感覚がズレているのか、これも働き方改革というやつでしょうか。

なぜに客として入ったバーで、こんな罰ゲームみたいな仕打ちを受けているのか。私、何か悪いことしちゃいましたか。さすがにこれは無意味に馬鹿にされていると感じて一杯だけ飲んで店を出た。バイト男子の手前もあってか、冷めた店員は最後だけ「ありがとうございましたぁ、またお越しください!」と笑顔だったが、もう二度と来ないよ…という言葉が喉まで出かかっていた。そして最高にマズいビールで一日を終えたくなかったので、別の店で飲み直して帰路に着いた。

人材難で特に人が集まらない飲食業。同じ時給だったら楽な環境で働きたいと思うのが人の性だから、冒頭に話したカフェにしても、外側への丁寧さを求めるのは難しい一方で、内側には優しくしないと人材は逃げてしまうのかもしれない。もうそういう時代なのかもしれないが、サービスってなんだろうねと疑問の湧く謎の出来事だった。

【about me…】

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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