マックのポテトをめぐる「類は友を呼び、やがて両者はリンクする」という話

良き作業場です。

入国制限が緩和されて、インバウンドの観光客が戻りつつある。「爆買い」の本場である銀座の近くに住んでいると、鮮明にその変化を肌で感じる。

コロナ前は、いつも中央通りに大型バスが横付けし、外国人の団体が道を埋めて毎日がお祭り状態だったわけだから、今の賑わいでも完全回復とは言えない。ただ、外出自粛でインバウンドどころか日本人も街から消え、どこでも空いていた頃を一度経験してしまうと、賑わいの回復によって不便に感じる部分がなくもない…というのが正直なところだ。



いわゆるノマドワーカーなので、よくマクドナルドに行く。食事と作業カフェ、両方の目的に使えるので勝手がいい。店には好ましくなかろうが、長居する。しばらく時短で店内の閉店時間が早まっていたが、こちらもだんだんと普通に戻ってきた。そして先日も作業目的で近所の店に行った時のこと…、

注文を終えてレジ前で待っていると、先に注文した客の番号が呼び出された。レジカウンターの上には、大量のポテトとハンバーガー。これはなかなかの団体客だな…と思っていたが、誰も取りに来ない。困った外国人店員がそれまでより大きな声を上げて何度か番号を呼ぶと、その客と思しき若い男性がヒョコヒョコとやってきた。

どちらも日本語ネイティブではない客と店員のやりとりだ。客の方はおそらくインバウンドで、日本語がまったく使えない。彼は店員に強い口調で、

「本当にこれで全部か?」

「お前、英語使えんのか? あ?」

「おい、ケチャップくれ!」

など、周りの日本人にも分かる英語で罵るかのように。文字で乱暴に見せているように感じるかもしれないが、口調から意訳すると、まさに上のような口ぶりだったのである。酔っているようには見えなかったので、これがこの若者の「素」なのであろう。

日本人というのは、サービスを受ける側にも一定の慎みがある国民だ。しばらく国内のぬくぬくした環境に籠った後だから、あぁ、こういう店員を見下した感じ、お国柄によってはあるよなぁ…と、近所でありながら久々に外国感覚が蘇った。

まぁ、これが彼のような白人の男子ではなく、黒人やアジア系の人であっても、さらにいえば女性であっても、無論日本人であったとしても、店員相手に「お客様は神様だ」感覚でリスペクトのない乱暴者を見るのは、気分のいいものではない。

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そして自分の頼んだものが来て、トレーを持って2階のフロアに上がると、さっきの乱暴者が仲間と席を囲んでいた。机の上には、明らかに頭数より多い大量のポテト。離れたカウンター席に座っていても彼らの騒がしい声が耳障りなので、イヤフォンを取り出して音楽で騒音を紛らすことにした。

しばらくして、あちらの席の方を見ると、彼らはいなくなっていた。時計は23時過ぎ。彼らが消えただけではなく、店内はほぼ僕しかいない静かな状態だ。その中で一点、違和感あるものに目が止まる。

僕が座るカウンター席の先に、手付かずのポテトが2つ置かれている。パーテーションのアクリル板に立てかけられて、ぽつんと2つ。そこは彼らが囲んでいたテーブルのすぐそば。置いていったのは誰かは言うまでもない。

食べられないものを安易に捨てないのは、フードロス対策としては立派かもしれない……否、食べきれないものは最初から頼まなければいいので、ひとつも立派ではないのである。昼間だったら清掃担当の店員がすぐに片付けていくだろうけれど、もう僕含めて客が2、3人しかいない時間帯なので店員も上がってこず、ずっとそのまま放置されていた。



そして再び時間は流れて閉店15分前。

がらんとしたフロアに、黒づくめのロッカーみたいな格好をした若い男子が上がってきた。一直線に僕と同じカウンター席に来てスマホを充電しはじめた。トレーも持っていなければ、片手にコーヒーすらない。

これも最近よくある、簡単に言えば「電気泥棒」の客である。急な尿意が来ても、都会のコンビニはトイレを貸してくれなかったりするので、仕方なくファーストフード店のトイレを借りるという万が一のケースはある。それくらいは許容できるが、最近は充電だけに使ったり、他の店の弁当なんかを持ち込んで食べたり、マクドナルドなどを無料公共スペースと混同して使っているマナー違反を見ることが少なくない。いくばくかのお金を払って利用している身としては、これも気分のいいものではないが、注意したところで要らない喧嘩のもとだし、そもそも放っておいたところで僕に何の害もない。店がお金を落とす客に敬意を表し、自浄してくれるのを待つのがベストだ。

いずれにせよ、もう店内利用は終わりの時間だから、片付けに入ろうか…なんて思いながら再び周りを見渡すと、さっきまであった、あの放置ポテトが消えている。記憶の限り、店員が片付けていった感じはないけれど。一方で、僕と放置ポテトの間に座っている電気泥棒の彼を見ると…

ポテトを食べている。

あれ、さっきポテトなんて持ってきてなかったよねぇ。まさか、

放置ポテト食べてる?

いつ誰が置いていったかも分からない食い物を口にする。これは店の電源をタダで使うなんてことを遥かに凌駕する度胸である。誰の唾が飛んでいるのかも分からない。むしろ、何かまぶされている可能性すらある。他に誰もいない空間でそれを目にしている自分は、世にも奇妙な世界というかアウターゾーンというか、そんな類の空間に迷い込んだかのような気味の悪い気分に誘われた。できるなら夢であってほしいと。

しかし、これによって彼には「電気泥棒ではない」というアリバイが成立するのである。たとえそれがカモフラージュであっても。食べきれないものを置いてった奴も充電だけしに来た奴も、これで結果オーライだ。これも食物連鎖とかエコシステムとかいうやつだろうか。

類は友を呼び、やがて両者はリンクする。

つい、そんな言葉が頭に浮かんだ体験であった。

【about me…】

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ

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