苦手なものを出されて外国人店員に簡単にキレる悲しい大人の話
東京で暮らしていると、コンビニや飲食店など、チェーン店の店員などは大体が外国人の若者である。それは主に中国や韓国、東南アジアから来た若者たちだ。僕のような仕事もプライベートも一人行動がデフォの人間は、ともすると、一週間のうち、日本人より外国人の彼らとの会話の方が多いようなこともある。この年末年始も然り、取材や所用で外に出る用事が何もない時は、しばらくの期間、家とスーパーとの往復だけで、外国人店員さんに「レジ袋ください」と言うくらいしか会話がないことも…。
レストランのホールやコンビニのレジ打ちなどは、結構なコミュニケーション能力を求められる業務だと思うのだが、客からあれやこれや飛んでくる要望に答えていく非日本語ネイティブの若者たちを見ると尊敬に値するところもある。
僕はそういう外国人の若者にこそこの国に嫌な思いを抱いてほしくないので、彼らに何かをしてもらった時は、できるだけ「ありがとう」と言うようにしている。留学生であれば、いずれ自分の国に帰る人も多いだろう。その時に「日本は嫌な国だった」という印象を持ち帰ってほしくない。自分の経験からも「良い国」という印象において「人の優しさ」というは結構重要な要素だと思うから。
それゆえに、同じ日本人の外国人店員への態度を見ていて、同じ国民として不快な思いをすることも少なくない。例えば、少し前にカレーライスのチェーン店に寄った時のことだ。
カウンター席しかないその店で、僕の向かい側の席に座ったスーツ姿の男性(以下、リーマン)が、外国人店員の青年に
「福神漬けは抜いて!」
と注文してカレーを頼んだ。その青年は正直そこまで日本語のレベルが高くない印象で、リーマンとのやりとりをききながら「これは大丈夫だろうか?」と少し不安に思った。
そしてリーマンのところにカレーが届くと、リーマンの表情にメラメラと怒りが浮かぶ。そして、カウンター中に響きわたる大きな声で、
これ、福神漬け入ってんじゃねーか!
と、青年にキレ始めたのである。
青年は、いきなり不自由な日本語で罵声を浴びせられて困惑している。リーマンみたいなオッサンにキレられたら、日本人の若者だって怖いだろう。
もし自分がリーマンだったとして、こういう時、僕は「自分が青年だったら…」という視点に置き換えて考えると思う。きっと日本人の平均値よりは外国で過ごした時間が長く、その中には英語圏以外の国もあり、言葉が通じないせいで苦労した経験はゼロではないので、非ネイティブにどこまで求めるのが正しいのかと。
このケースだと、イタリアで現地語勉強中にピザ屋でバイトしていて、イタリア語しか話さない現地のオッサンに「ピザにオリーブは入れんでくれ」と頼まれたのに、オリーブの載ったピザを出しちゃった感じだろう。
うーーん、たぶん自分だったらそれくらいの間違いはする。
リーマンからすると、苦手なものがそのまま乗ってきたことに瞬間沸騰的な怒りが込み上げてきたのだろうが、いい大人なんだから、そこは冷静に店員に伝えて取り替えてもらいなよ…と。
というか、
福神漬けぐらい、スプーンで避けて食えよ
と心の狭さを感じてしまったのである。
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別の日、今度は競輪の場外車券売場近くにあるチェーンの定食屋を利用した時のことだ。そこもカウンター席しかない店。
斜め前に座った競輪帰りと思しきオッサン(以下、ギャンブラー)が、外国人店員の女子に
「味噌汁にワカメ入ってないよね?」
と聞いて、唐揚げ定食を頼んでいる。
いい歳のオッサンなのにワカメくらい食べられんか…と思いつつ、まぁ、この前みたいな福神漬けなら好き嫌いだけの理由だが、ワカメの場合は稀にアレルギーのある人がいるので、何らか健康面の都合かもしれないとも思った。
そしたら「ワカメ、入ってません」と店員女子。
僕は既に同じ定食を食べている最中。たしかに味噌汁にワカメは入っていない。ただ、味噌汁には
とろろ昆布が入っている
のである。
ギャンブラー、ワカメはNGでもとろろ昆布はOKなのだろうか。ワカメととろろ昆布というのは、ベリー系に例えるならストロベリーとブルーベリーの違いくらいだろうか。いや、その例え、例えになっていないぞ(笑)。ともかく“福神漬けのケース”を思い出して、ギャンブラーが暴れ始めないか、心配になってしまったのである。
はたして外国人にとって「ワカメ」というのは、どれくらいの難易度の単語なのだろう。外国人であっても店員だから知っていて当然という見方もありつつ、ネギとかニンニクとかならともかく「ワカメ抜いてくれ」という注文は、なかなかのレアケースに違いない。
とろろ昆布ならいけるようであれば何の問題もないが、もし、とろろ昆布もNGだとしたら、どうすればこの災難を避けられただろうか。ギャンブラーは「ワカメ入ってる?」じゃなくて「海藻類入ってる?」と聞くべきではなかったのか、いや海藻類はワカメ以上にハードルの高い単語か。
そんなことを心の中で考えながら、もしギャンブラーがキレて不快な思いをしたくないなと思い、結果が出る前に僕は店を去ったのである。
ともかく、大人になっても、苦手なものを出されるとたちまち不機嫌になる大人が多いという話であった。あの後、店員さんがワカメごときで理不尽に罵声を浴びせられなかったことを心から願っている。
【about me…】
鈴木 翔
静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。