僕の「こんなことで死にたくない理由」第1位が20年ぶりに更新される

絶対にこんなことで死にたくない!

コロナ禍になって毎日毎日「陽性者が…」という報道を見ているからか、何だか「命の終わり」みたいなものを以前までより近くに感じる。自分の命がどうこうということではなく、あくまで感じ方の話として。

自分の人生がどういう形で最期を迎えるかなんて、もちろん今の段階では想像がつかない。一人で迎えるのか誰かと迎えるのか、事故なのか病気なのか、いきなり終わりが来るのか、それともちょっとは余裕の時間をくれるのか。

そんなことは何もわからないけれど、ただ、高校出たばかりの頃に「こんな風に死んだら絶対に悔いが残るだろう」と強く思ったことがある。



車がなければ生活ができないような地方だと、高校を卒業して社会人になった人はだいたいマイカーを持つ。車というのは自らのステータスを顕示できる代表的なアイテムだから、社会に出れば大体みんな良い車に乗りたいと考える。小学校時代からの親友もその一人で、高校を出て食品工場に勤め始めた彼は短い期間に何台かの車を乗り換えた後、高いローンを組んで分不相応な2シーターのスポーツカーを新車で買った。

高級車っていうのは年相応のバランスみたいなものがあるから、ユニクロのフリースが一張羅な20歳そこそこの若者に500万近い車はどう見ても不釣り合いだったが、軽トラックしか走っていないような田舎道を颯爽と走ってウチまで迎えに来てくれるオレンジのスポーツカーは相当に目立ち、やはり車というのはステータスの象徴なのだと実感させられた。

みんなが憧れるようなカッコいい車の助席に乗せてもらえたわけで、それは原チャリしか持っていない僕にとっては贅沢な体験だった。ただ悩みどころは彼の運転が荒かったことだ。決して運転が下手というわけではない。むしろ上手いのだが、ハイスペックな車に乗ればその実力をフルに発揮してみたいと考える車好きの性が出て、法定速度ギリギリのスピードでとにかく飛ばす。

地元には毎年のように死亡事故が絶えない堤防があるのだが、そこでも友人の安全などお構いなしで飛ばす。さらに自分の運転テクニックを僕に見せつけたいのか、カーブをわざとギリギリまで曲がらずこちらを驚かせてみたり…。僕はそんなのがカッコいいとも何とも思わないので「危ないから、ゆっくり走ってくれ」と頼むのだが、彼は「大丈夫、大丈夫」と、どこから来るのか分からない自信を漲らせて乱暴な運転を止めようとしない。それを見ていて「ああこういう人がここで次々とお陀仏になっていくんだなぁ」と真剣に思った。

 その時から「他人の運転のせいで死ぬ」が、僕の「こんなことで死にたくない理由」の第1位になった。 

高校でそれなりに勉強して進学し、親に高い学費出してもらって大学に通わせてもらっているのに、カッコいい運転を見せたいという他人のどうでもいいエゴに巻き込まれて死ぬ。それは自分の努力で避けようにも避けられない。そして地方新聞の片隅なんかに小さな記事で報じられ、見ず知らずの人から運転手と一緒くたにされながら「自業自得だ」なんて吐き捨てられながら死ぬ。そんな死に方はあまりに自分自身のことが不憫で、言葉通り死んでも死に切れない(笑)。

華麗なジャンプアップで約20年ぶりのトップ更新

あれから長い年月が過ぎて、世の中の環境も僕自身の生活も大きく変わった。運転が荒かった彼も幸運にも僕の悪い予感が当たらずに今日まで元気に暮らしている。そんな中で、このたび約20年ぶりに「こんなことで死にたくない理由」の首位が更新されたのである。


 それは「フードデリバリーの自転車にひかれて死ぬ」だ。 

ウーバーイーツをはじめフードデリバリーがこんな急速に普及するとは思っていなかった2、3年前は考えられなかった理由なので、数段飛びの華麗なトップ奪取だ。

最初の頃はお小遣い稼ぎ的な若い人が多かった印象だったが、最近ではコロナ禍による不景気で“生活ガチ勢”のようなが人が増えてきて、配達員の中にも生存競争が生まれているように見える。それに伴ってか、スマホを見ながら走っていたり、狭い道を乱暴に突っ込んできてぶつかりそうになったりとマナー違反の運転も見かけることが増えた。

自転車との事故でも当たりどころが悪ければ大怪我をする。自転車同士の衝突なら死亡事故につながる可能性だって小さくない。加害者の自転車でも被害者の自分でもない“誰か”が頼んだハンバーガーとかカレーとかフライドチキンのために、まるで関係のない自分が殉じるのである。ハンバーガーのせいで死ぬなんてドライブスルーはできてもその悔しさはスルーできない。

では「自分のメシを運ぶための乱暴な運転だったら許せるのか」と聞かれれば、もちろんそれも許せないけど、とにかく誰が食べるか知らないハンバーガーのピクルスやラーメンのスープなんかにまみれながら死んでたまるものか…なのだ。

そういうわけで今や数多見かける乱暴な自転車にいちいち苛立つわけにもいかないので、危なそうな自転車には近づかないなど自衛を心がけている。そして、できるなら何か意味のある人生の最期を迎えたい。おわり

【about me…】

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。
出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済など様々。これまでの経験値から「たとえわかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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