バスの車内でマックのポテトを食べる? それを「旅の恥はかき捨て」とは言わない

TPOを間違わなければ、これほど旨い食べ物はない

子どもの頃、家族で「m」の看板が立つあの店のドライブスルーに寄ると、商品を受け取った後の車内で必ず親からこう言われたものだ。

絶対に車の中でその袋を開けるな、と。

確かにアレの匂いは、食べている本人が思う以上に強烈だ。そして車を降りた後も車内に長い時間残り続ける。親にとったら大切な愛車をあの匂いで汚されたら、たまったものではない。

大人になって自分の愛車を持ったことはないが、最近、空港行きの高速バスに乗った際、こんな出来事に遭遇した。



始発の銀座駅前で乗った僕は、割と好きなところに座れたが、次の東京駅前では大量の人が乗ってきて、あっという間にほぼ満席の状態になった。よって、2人で一緒に座れる席はなくなり、とにかく空いているところを埋めていく相席に。僕の隣にも10代と思しき少女が「ここ、いいですか?」と言って座ってきた。

どうやら彼女は母親と姉妹との3人組のようで、他の二人も彼女の横と前の席に座った。

彼女が席に着いたところで、何か心地良くない匂いが香ってきた。決して知らないわけではない、むしろ僕もよく親しみがある匂いである。すると彼女が、座席のドリンクホルダーに「m」のロゴが描かれたドリンクを置いた。

なるほど、バスを待つ間、停留所すぐそばの「m」で早いランチをしてきたのか…と、僕はそれを「残り香」だと思っていた。

ところが…、向こう側にいる家族が「m」のロゴが描かれた紙袋を取り出したのである。ん? それはまさか…、

「開ける? ねぇ、開ける?」と少女。

既に袋の中から香りが漏れ伝わっているため、彼女らを除く周囲には戦慄が走る。

続いて「やっぱ匂うかなぁ~」と家族に聞く少女。

そうだ、よくぞ気付いた。こんな人が密集した車内でそんなん開けたら、ただの迷惑だけでなく、周りの人の服にまで臭いがつくぞ(ただし、既にこの段階で壮大に香りが漏れているわけだが…)。

誤解を招かぬよう付け加えると「m」には何の罪もない。むしろ「mのイモ」は、僕もとても好きだ。悪いのは、それを広げる場所を弁えない彼女たちの行動なのである。

なぜ、わざわざバスの中でそれを食べようと思ったのだろうか。百歩譲って、ここまで混んでいることを想定していなかったにせよ、状況を見て自制するべきでは?

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常識の範疇で考えれば、「匂うかなぁ?」という少女の一言で開封を踏みとどまると思ったのだが、ここで前の列に座っていた母親から驚きのDQN発言が飛び出した。

「こういうのは『旅の恥はかき捨て』っていうのよ」

そう言って娘から紙袋を奪い、バサッと開けて中からイモを取り出した母親。

正直、耳を疑った。旅の恥はかき捨て…、旅先でよく使う言葉ではあるが、はたしてそれは、迷惑をかける相手が聞こえる状況で自分たち自らが言う言葉だろうか。

「やっぱり安定の味ね」

なんて言いながら娘たちと紙袋の中身をほじくりあっている母親。そういえば、昔、大晦日だかに家族で一杯のかけそばを分け合う感動物語が流行ったことあったな…、いや、そんなことはどうでもいい話だ。いま目の前で繰り広げられている「一袋のイモ」は、感動物語とは正反対の、とんでもない迷惑話なのだ。なぁにが「安定の味ね」だ。こっちには脂ぎった強烈な匂いがプンプンと漂ってきて、そいつのおかげで車酔いしそうだ。よっぽど、悪びれる様子もなく繰り広げられる君らのそれは「旅の恥はかき捨て」なんてものではなくて、ただの「厚顔無恥」ではなかろうか。



しかし、どんな不幸に見舞われても命を落とさない限り人生が続いていくのと同じで、目的地に辿り着くまであと1時間はこの臭いに耐えなければならない。現実的に、この臭いから逃れる手段はないだろうか?

そう思いながら頭上を見たら、エアコンの穴が二つ、塞がれた状態になっていた。蓋を開けてみると、幸いなことに冷たい風が出ている。その風を彼女らの方に向けると臭いが一気に消し飛んだ。はじめから、こうすべきであった。

彼女ら側にある僕の右腕にも寒さに近い冷たさが伝わってきた。おそらく彼女たちもひんやりとした思いをしただろう。しかし、それでも何も言ってこなかったのは、こちらの心の声を察し、少なくとも娘の方には一抹の罪悪感があったからに違いない。風が吹き続けたのは目的地に到着するまでの約30分ほど。しばらくの間、全身に感じた冷たさが、自分と自分の親の恥に気付く反省のきっかけになってくれればいいのだが。

【about me…】

鈴木 翔

静岡県生まれ。東京都中央区在住。出版社や編プロに務めた後に独立。旅好きでこれまでに取材含めて40カ国以上に渡航歴あり。国際問題からサブカルまで幅広く守備範囲にしています。現在は雑誌、実用書などの紙媒体での編集・執筆だけでなく、WEBライターとしても様々な媒体に関わっています。ジャンルは、旅、交通、おでかけ、エンタメ、芸術、ビジネス、経済などノンジャンルでありオールジャンル。これまでの経験から「わかりにくいものでもわかりやすく」伝えることがモットーです。

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